あらすじ・ストーリー紹介編集

田行(コウ)は孤独な少年だ。彼が3歳のときに母親が亡くなり、彼にはその母親の記憶さえ無い。そして父親はプライドばかりが高い人間で、文筆業で身を立てたかったらしく、行を自分の姉の家に預けていた。月に一、二度父親が逢いに来るのを、行は町の橋の上に立って出迎え、そして見送った。叔母の家は釣り具屋を営んでおり、行は一日の大半を店番で過ごしていた。店の隅の小さなイスが彼の唯一の居場所だったのだ。好き、嫌い、おいしい、おいしくない、あれが欲しい、これがしたい……と子供なら誰もが主張するわがままな感情を、彼は一切口にしない。“叔母の家にいるためには多くの感情を停止させることだ”と、頭でもなく心でもなく体が自然に覚えているかのような少年だった。そんなある日、事件が起こる。行の父親が自殺したのだ。しかし行にはそれが信じられない。なぜなら父親が死んだその日、彼は橋の下を海に向かって流れていく父の姿を見たのだから……