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私にとって、一番思い出が多い作品です。高校生の頃は...

5.0

投稿 : 2020/11/23 00:25

状態 : 読み終わった

私にとって、一番思い出が多い作品です。高校生の頃はじめて読んだ時と今でも基本的には読後の感想は変わっていないと思うのですが、いろいろな細部に目が留まり、解釈が変わっていった作品です。恋愛ものであり、家族のドラマであり、社会批評のドラマであり、吉田先生がアメリカンニューシネマに影響を受けたと言っておられるだけあって、映画それも非常に重い映画的作品です。人物が初期は少女漫画風でしたが、後半は大友克洋さん風の骨格までわかるリアルな人物で描かれ、コマ割りもフィルム風に淡々と割られて、しかも小説レベルのト書きのうまさがあり、何度読み返しても飽きない作品です。吉田先生が若い頃にこれを描かれたというのが本当にすごい事だと思います。

物語の概略は、高校生時代に麻薬におぼれたことのある主人公ヒースが、ニューヨークにやってきてそこで相棒のイーヴと二人暮らしを始めるという話で、イーヴは貧しさから売春をした事がある少年で、BL的展開はありますが深刻な内容で、今風のBLの明るいドラマではありません。BLの話だけではなく、ヒースは女性とつきあって妊娠させたりします。そしてヒースがニューヨークにやってきた理由も、家庭内での軋轢からでした。ヒースの兄との確執の物語は、聖書のアベルとカインの物語になぞらえられ、そこも非常に深い話になっています。後日談で描かれた話では、胸打たれること間違いないでしょう。どこの家庭にでも潜んでいるような、家庭内の人間関係が描かれています。そしてそれがぎりぎりまで描かれていて、現実というものを突き付けられます。

これが描かれた当時は、しかしこのような作品は漫画界では珍しくなかったのです。全体的に今よりも「成熟」を要求される時代だったと思います。文化的には劣っている暮らしだったですが、人々はそのためにより高度な事を日常生活では要求されたのです。その一端がうかがえるのが本作品であり、今の人が読むと「何もそこまで」と思うかもしれません。今のように語学がネットで学べない時代、遥か遠くの存在だったアメリカ大陸の物語をこのように描く事は、本当にどういう事だったのでしょう。それを思うと、はるばると西からやってきたこの青年の物語が、歳月を経ても私にはとても大切に思うのです。

※このレビューがネタバレしてると思ったら...?

サンキュー

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