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最高の漫画は何かと聞かれたらこの作品を挙げる。 ...

5.0

投稿 : 2016/10/19 22:32

状態 : 読み終わった

最高の漫画は何かと聞かれたらこの作品を挙げる。
テーマの深さと完成度の高さは並ぶものなし。

思い入れのある漫画なので概要説明はやめて
登場人物の中で特別な位置づけにある「田村玲子」と「浦上」について語ってみる。

・なぜ田村玲子は戦わず死んだのか
「田村玲子」は最も高い知能を持つパラサイトであり
教師の立場で人間を教えたり、地方自治体を乗っ取ってパラサイトのコミュニティを作り上げたりしながら
パラサイトの存在意義と人間との関係について考える、探求者・哲学者として描かれる。
この田村玲子と新一・ミギーはいずれ戦うことになると予想した読者が多かったと思う。
しかし、田村玲子は警官に包囲された状況で逃げることも戦うこともせず
赤ん坊を守りながら銃弾を浴び、子供を新一に託して絶命するという最期を選ぶ。
このシーンは寄生獣で最大の山場ということもあって色々と考察されている。

愛情、特に母子間の愛情は人間だけがもつ感情ではなく、哺乳動物は少なからず持っているものである。
しかしパラサイトは繁殖能力がなく親も子も兄弟もいない。
パラサイトに完全に欠けていて、最も理解しにくい感情であると言える。
それに対して田村玲子は生物として劣等感をもっていた。
新一と最後に出会う前に倉持を殺して赤ん坊を奪い返す場面がある。
このとき田村玲子は自分の中にも母性が存在することに気づく。
人、そして自分はなぜ血が繋がらないもの、ましてや別の種に愛情を持つことができるのかーーー
その疑問の答えを出すべく「自己犠牲という動物として最も不合理な行動で愛を体現した」というのが私の解釈です。
疑問に答えを出すのが目的であれば命を落とす必要はないと言えばもっともだけど、
他の方の考察を読んでもしっくりくるものはなかなかない。
思うに、この行動について無理に人間に当てはめて説明する必要はなく、
人間が自殺する唯一の動物でそれが他の動物が決して選ばない行動であるように、
このときの「今ここで死ぬのも悪くない」という田村玲子の心境も
人、あるいは同種であるミギーも理解できない境地のものと考えて良いではないだろうか。
ちなみにこの回のアニメ版のタイトルは「人間以上」である。

・浦上とはなんだったのか
浦上は物語の後半に突然登場する殺人鬼である。
人間とパラサイトを見ただけで判別できるという特殊能力を持ち、
市役所での人間とパラサイトの全面戦争で便利な存在として用意されたキャラかと思いきや
最終話で新一が対峙するのは最強の寄生生物・後藤ではなく、寄生生物ですらなく、浦上なのである。
この意図が子供のころ読んだときは分からなかった。

パラサイトは地球を汚す人間を減らすために創造された生き物として設定され、
そこには「人間が地球に害を及ぼす最も愚かな生き物」という主義主張がある。
この主張を受け入れられる人はまずいないだろうが、否定もしにくい。

一方浦上は人間は本能的に殺し合う生き物であり、人殺しの自分こそが本来の姿だと言い張る。
こんなものは詭弁以外の何物ではなく、先ほどの主張に比べて明らかに間違いだと言い切れるものだ。
浦上自体は新一に一撃で倒されるのだが、この勝負は思想の対決でもあり、浦上が語った人の行動原理
さらには、当初にテーマに掲げたようとした人間批判の主張を否定したいのである。
浦上は作者自身が連載中に思い直して出た結論へ、読者を導くための人物なのだ。

人間の素晴らしさを寄生生物であるミギーから最後に伝えられる。
田村玲子の最期の行動の根底にあるものも、豊かな感情を持つ人間への憧れだと思う。

人間を否定する冒頭から始まり、人を害とみなし捕食するパラサイトを通して
人間の存在意義を読者に問いかけた上で、
最後は人間賛歌へと帰結させる、その構成の素晴らしさ。
孫の代まで読み継がれるべき作品でしょう。

サンキュー

2

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