
思春期に心の病を拗らせた少年少女を過激に描いた問題作。
相当評価が分かれる作品だと思われる。
刺さる人には刺さるし、
人によっては女の子の可愛さだけで話を引っ張る気持ち悪い妄想漫画でしかない。
ある意味で現代アートに通じるものがある。
ストーリーは二部構成になっている。
第一部は非常に刺激的な内容。
ボードレールの「惡の華」が愛読書の文学かぶれの男、春日君は
ちょっとした出来心で佐伯さんというクラスのアイドル的女の子の体操着を盗んでしまい、
それをクラスメイトの仲村さんに見られてしまう。
タチの悪いことに、この仲村という少女が小悪魔なんてレベルではなくサイコパスの域の悪女。
弱みを握られた春日はダークサイドに引きずりこまれ、どんどん問題行動を起こしてしまう。
どこまでも堕ちていく登場人物たちの様は悲しくもあるが、次に何をやらかすか予想のつかない面白さもある。
次第にエスカレートしていき最終的には警察のお世話になる。
センセーショナルな第一部に対して、第二部は祭りの後といった感じの静かで透明感のある世界が描かれる。
その雰囲気の違いは漫画の装丁にも現われている。
社会や周囲の人への反抗心は思春期の一時に現われるもので、年を重ねると自然に消えていくものである。
それは現実の人達と同じく春日君、佐伯さん、そして仲村さんも例外ではなかった。
そのまま成人したら犯罪者になってしまう。
しかし反抗心自体は消えても、事件にまでなり村から逃げ出した彼らに残るものは、限りない後悔と自己嫌悪。
その感情が澱のように積み上がり、引き続き暗い青春を送ることになる。
第二部のテーマは明快で、「再生」である。
立ち直るきっかけとなるのが常盤という新ヒロインで
春日は読書という共通の趣味をきっかけに彼女と親密になり、
電撃的な告白を成功させ、幸せな日常へと回帰していく・・・という流れである。
この漫画で作者がターゲットとしているのは扉のコメントにあるように
暗い青春時代を過ごし、大人になった今「もう一度人生やり直したい」と後悔しているような人だろう。
だが、そのような人に救いの書となるかと言われると疑問だ。
春日高男という人物に共感できる人は一定数いると思うが、
好感を持てる人は殆どいないのではないだろうか。
成長とは言っても負の感情の連鎖を断ち切るという内に閉じたものであり、
人間的な魅力が、やはり春日という主人公にはない。
「小説を書くことを後押しする=本当の自分を見てくれる」
という理屈で常盤は春日を受け入れるのだが、これは佐伯さんが春日と付き合った理由と酷似している。
所詮は創作物なのでリアリティを追求する必要はないが、
やはりこの行き当たりばったりで都合の良すぎる展開は説得力に欠ける。
第一部でやりたい放題描いて、この話の閉じ方は強引すぎやしないか・・?
青春物で大切な"成長"をうまく描けていないように見える。
例えば現実の押見氏のように芸術・美術の方向で才能を開花させるようなストーリーなら印象は変わったのではないだろうか。
このように連載中に追いかけていた時は収束のさせ方に不満があり評価が低かった。
今回レビューを書くにあたり、内容がうろ覚えだったこともあり読み返してみると
意外にも煽情的なストーリー展開に引き込まれ、あっという間に最後まで読み切ってしまった。
イマイチだと思った第二部も人物の微妙な表情の描き方、台詞のないコマでの間の作り方、
ルドンの絵を使った抽象的な表現、どれもうまいなぁと感心した。
嫌よ嫌よも好きのうち。思っていたよりもずっとこの漫画を気に入っていたようだ。
全体的な構成は荒っぽいけれども絵の表現力は確かであり、
これ程はっきりと作者の自己主張が感じられる漫画はほとんどないだろう。
理屈では語れない蠱惑的な魅力がこの作品にはある。
サンキュー
このレビューは参考になりましたか?
『フォロー』ボタンを押すと、この人が新たにレビューを書いた時に、アナタのマイページに通知され、見逃す心配がなくなります。 マンガの趣味が合いそう、他のレビューも読みたいと思ったら、とりあえずフォローしてみましょう。
惡の華の感想/評価はユーザーの主観的なご意見・ご感想です。利用規約を参考にあくまでも一つの参考としてご活用ください。
惡の華の感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたらこちらのフォームよりお問い合わせください。